Il maestro
2025年4月、10周年を迎えたオートモビルカウンシルにジョルジェット・ジウジアーロ大先生がいらっしゃった。(ジュジャーロと発音するのが本来ですが、まあ、これまでの慣習どおりの表記で)
今年、御年87歳となる彼。まだまだとてもお元気でいらっしゃったのがなにより。
さまざまな貴重なお話に加え、アルファ・ロメオのジュリアのデザインの起源などをイラスト混じりに語ってくださったのは、本当に僥倖といえるひとときでした。
さて、彼は自動車のデザイン以外にも家具やセイコーの時計やソニーのラジカセ、NIKONのカメラなど、活躍の場は多岐にわたりますが、初日のトークショーでは、彼にとっての「デザイン」という根源的な部分についてのお話が聞けたのが個人的にはとても嬉しかったですねえ。
要約すると、自動車のデザインとは、時代はもちろん、自然や都市、建築といった環境、絵画などさまざまなものとの融和が大切だよとおっしゃっていたが、まさに彼のデザインするクルマたちには、そうした思想が反映されていて、実際に所有してみるとその暮らしとの親和性の高さに関心することしきりです。
↑ランチア・デルタ初期型
私ごときが偉そうに語れるかどうかはさておき、少なくとも現在に至るまで、気づけば彼のデザインしたクルマは5台以上乗り継いているから、まあ多少のお話は許されると思っている。
いや、とにかく許してほしい。
スーパーカー世代の人間にとって、ジウジアーロデザインというと、ガンディーニさんや、ブロバローニやフィオラヴァンティのピニンファリーナの作品と比べると、やや「味が薄め」に映った印象がある。
↑マゼラティ・ブーメラン おそらく巨匠のデザインの中では最も派手な一台。
ところが、大人になって実際に購入すると、その美しさや絶妙な雰囲気にすっかり虜になってしまう。
どこまでもエラそうな話で、自分で書いていても恥ずかしくなるが、しみじみと「うん、いいね」と呟くことがいまだに多い。
外から見た姿はもちろん、ふと信号待ちで内装に目をやる時も、なにより、ウインドウにクルマが映り込んだときなどは、いつでもハッとさせられる。
パッと見は普通。でも、よく見るとなにか違う。
普段着のセンスが良いというか、なんでもないことが、少しだけハイセンスな感じ?
ちょっと陳腐な表現しか浮かんでこないが、とにかく、日常という自分を取り巻く環境に、チョッピリどころか、結構大きな味わいの変化をもたらしてくれているのは間違いない。
いわずもがなのFIATパンダはもちろん、今回のオートモビルカウンシルにはでていなかったが、デルタのノッチバックセダンであるプリズマなども、街なかや自然、町屋造りから高層ビル群の谷間まで、どこにおいても絵になる。
(ゴルフや117クーペもいいですけど、やっぱりホームのクルマたちは違うと思いますw)
二玄社時代の大先輩が、「イタリアの大衆車はチープだけどみすぼらしくないだよなあ」と、よく呟いていたが、その通り。
安いが安っぽくない。
つまり、日々の心が荒むことがない。
↑トークショーに登場したジュリア段付きに至るデザインのもととなったアルファ・ロメオ2600GT
これってイタ飯そのものだなあと納得したものです。
とにかくウマい。
楽しい、会話が弾む。
そんなクルマを作っちゃえるジウジアーロ先生。やっぱり、まごうことなき巨匠です。
マエストロ。はるか遠くまで足を運んでくださり、本当にありがとうございました!